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絶対に負けられない戦い

久しぶりに朝から都内への通勤電車に乗った。
地下鉄で日比谷まで行こうとしていた。
地下鉄東西線の中で久しぶりに下腹部に鈍い痛みが出てくるのを感じていた。

(こ、これは・・・。)

まもなくやってくる波の予兆である。
吊革につかまりながら乗り換えの茅場町までの駅の数を数えた。

(日比谷まではもたないな・・・。)

なんとなく燃料の切れかかっている戦闘機のパイロット、或いは目的地までの途中でやむを得ず浮上せねばならない潜水艦の艦長、のような感じで冷静に判断していた。実際そんな想像までしている。

それにしてもまもなく門前仲町という辺りで妙に列車が減速しているのが気になる・・・。

とてもとても気になる・・・。

いや、だんだん気になるどころではなくなってきている・・・。

やっと門前仲町を過ぎ、次は茅場町というところだ。
もはや乗り換えてから日比谷まではとても持たないことは分かっている。

勝負は茅場町だ。

しかし徐々に緊急度合いを増している腹の具合とは裏腹に、突然無情にも列車は停止した。

(えっ!?)

しかも何の、何の説明もない。
じりじりするこちらの感情は置き去りにされ、気の遠くなるような時間(実際は数十秒)が経過し、列車は再び動き始めた。

(冷静に。冷静さを失ったらだめだ。)

一体何に対してか全く分からないことを口の中でつぶやきながら茅場町に到着した地下鉄のドアが開くのを待った。
開いたからといって闇雲にダッシュはできない。
最優先に、トッププライオリティーで、(同じことだが)素早くトイレマークを探す。

ここでは注意が必要だ。
改札外、のトイレもあることだ。
そこは瞬時の冷静な判断が必要とされる。

意外と近いことが分かった。
しかし素早い動きはできない。
もはや緊急度が急速に上がっているため逆に敏速に動くことができなくなっているのだ・・・。

しかし場所を特定し、少しの無駄もなく一直線に目的地に到着した。

瞬時にトイレ内を見渡す。
小用の後ろに立っている男。
こいつは小だ。

個室は2つ。
1つ空いている!
しかしなぜか空いている個室の前に立つ男が。

「入っていいですか?」
必要以上に動揺を悟られないように男に向かって尋ねると
「いいですよ。」
の返事。

滑り込んだ個室のドアを閉めた。

和式だ。

床もきれいとは言い難い。
しかし他の選択肢はない。
男は洋式を待っていたのだ。
今更外には出れない。

この場合一番気になるのはズボンの裾である。
少し考えて、靴下に入れ込むことにした。
上着はドアのフックにかけ、カバンは念のため確認してから壁のでっぱりの上に置いた。

ふう・・・・・・・・。

勝負には勝った。
この勝負に負けることは社会人としての人生の終わりを意味する。
これからもまた新たな試練が襲ってくることだろう。
しかしこの戦いには、この戦いにだけは常に勝ち続けなければならない・・・。

戦いが終わり、個室の外に出たほうくの前に列を作る男たちの姿があった。

戦いに勝利した者だけが見せる余裕を見せて、しかも気分的にはうっすら笑みさえ浮かべながら、ほうくはその前を軽やかに去ったのだった。

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コメント

この戦いは負けられないですね

順番待ちの時は早く出ろよ〜とか思いながら、いざ個室に入ると全く後の人状況を考えないでゆっくりしてしまう

この時ほど人間て利己的だなと感じる時はないです

○とっき〜
そう、最後は人間なんて勝手なものです。
もう完全に緊急事態の最終段階にきている時に個室の前で他の人とかちあったら、
「お先にどうぞ。」
なんて言えますか?

私は言えません・・・。

その、個室の前に立って尚かつほうくさんに譲ってくれた人って、どういう人なんだろうか?
私ゃそれが気になる。ミステリーの読み過ぎでしょうかね…。

○Tommyさん
恐らく緊急度が低く、かつできれば洋式がいい、ともうひとつの洋式を待ってたんでしょうね。
私の場合は緊急度高かったので選択の余地はなかったですけどね。

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